Daron Acemoglu, Human Capital and the Nature of Technological Progress (その2・完)

 後半です。引き続きこちらと一緒にご覧ください。文献リストがないのがこのスライドの欠点ですが、調査はまた今度。


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技術の性質


・技術は異なる個人、異なる生産要素に対して中立的ではない。
 ―勝者と敗者
 ―例:英国産業革命;織機の導入は熟練織布工の賃金を低減させた。
 ―熟練労働者のための技術と未熟練労働者のための技術?
・過去100年の経験からの証拠:技能偏向型技術変化(SBTC)
 ―教育の供給の大幅な増加、それに続く教育の収益率の増加。
 ―未熟練労働者を追い立て、熟練労働者の雇用を増やす新技術。


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SBTC


グラフの縦軸左側・○線:大卒賃金プレミアム
      右側・△線:大卒労働者の割合
グラフの横軸:年(20世紀)


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SBTCを理解する


・なぜ新技術は技能偏向的だったのか?
・おそらくは技術の性質にかかわっている?
 ―新技術はルーティン的課業を取り除き、抽象的な技能を必要としている。
 ―Nelson-Phelps:新技術の導入は技能労働者の方をこそ求める。
 ―しかし19世紀における新技術の多くは技能置き換え的だった…
・おそらくは技術の性質は周囲の状況への適応にある…
・「方向づけられた技術変化」仮説(Acemoglu, 1998, 2001)


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方向づけられた技術変化(1)


・技術進歩の方向は内生的で、利潤動機に対応している。
 ―例:もしもパーソナルコンピュータを使った方がスキャナを使うよりも儲かるのであれば、前者が導入され開発される。
・収益性のカギとなる規定要因:市場規模
 ―より多くの労働者がある特定の技術を用いるならば、それを開発し、市場に出し、導入する方がより儲かる。
 ―より多くの労働者がスキャナよりもパーソナルコンピュータを用いるのならば、後者の方がより収益性が高い。


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方向づけられた技術変化(2)


・より多くの熟練した/教育をうけた労働者がいれば、技能偏向型技術にとっての市場規模はより大きくなる。
・技術は内生的により技能偏向的になる。
 ―大卒労働力の大幅な増加は、技能偏向型技術変化を速める方向へと導く。
 ―技能の供給と教育の収益との間にある関係にとっての含意。


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方向づけられた技術変化(3)

グラフ縦軸;相対賃金
グラフ横軸:技能労働の相対供給

右下がりの直線:短期的な(技術一定下の)労働(相対)需要曲線
左下がりの直線:長期的な(技術変化を織り込んだ)労働(相対)需要曲線)
垂直方向の破線:労働(相対)供給曲線


 技能労働の相対的な供給が外生的な要因で増加すれば、短期的には技能労働者の相対賃金は下がるが、長期的には上昇する。


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方向づけられた技術変化(4)


・人的資本は技術の性質を規定する。
・技術進歩の性質についてのありうべき説明
 ―近年ならびに20世紀全体を通じて、技能の供給が増大→技能偏向型技術
 ―産業革命の間は、不熟練労働者の供給が増大→技能置き換え型技術
・ありうべき問題:
 ―低技能の労働者は新技術の恩恵から排除される可能性がある→より大きな不平等
 ―低開発国にとっては:新技術はますます技能偏向型となり、ますますそのニーズに合わなくなる。


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制度的背景


・人的資本、物的資本、技術は経済成長の至近要因である。
・なぜある国々は人的資本、物的資本、技術により多く投資するのか?
根本要因:制度(社会におけるゲームのルール)によって規定されたインセンティブ
・制度は以下を供給していなければならない:
 ―発明家のために財産権を保障する。
 ―ゲーム場を公平に保つ。
・代替的な要因:地理、あるいは文化、社会の(直接的な)コントロールの外にあるものとしての


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制度的な多様性


・国によって制度には大きな差異がある。
 ―民主政体・対・独裁政体。
 ―財産権の執行。
 ―法体系。
 ―参入障壁(例:DLLS:ドミニカ共和国で新ビジネスを立ち上げる費用は合衆国の60倍以上)。


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制度とGDP

グラフ縦軸:1995年におけるGDP(対数)
グラフ横軸:収用リスクからの保護の平均、1985-1995年


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しかし制度は内生的である


・国によってその背後要因が様々に変化するため、制度は変化しうる。
モンテスキューのストーリー
 ―地理的条件は「人間の態度」を規定する。
 ―人間の態度は経済活動と政治体制の双方を規定する。
・識別問題
 ―相関は因果を意味するわけではない。
 ―同様の識別問題が教育の外的収益を解明する際にも浮上する。


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モンテスキューのストーリー?


グラフ縦軸:1995年の一人当たりGDP(対数)
グラフ横軸:緯度


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外生的な多様性の必要


 研究のさらなる進歩のために歴史という「自然の実験」を利用しつくす。
1.韓国・対・北朝鮮
2.ヨーロッパによる植民地化(Acemoglu, Johnson and Robinson)


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朝鮮という実験

・朝鮮:第二次世界大戦終了時までは、経済的、文化的、そして民族的に非常に均質
:あえて言えば、北の方がより工業化されていた。
・南北の「外生的」な分断とともに、互いに非常に異質な政治的・経済的制度が形成された。
・資本主義・対・計画経済
・巨大な乖離
 ―物的資本、人的資本、技術のいずれにおいても


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北朝鮮と韓国


グラフの縦軸:一人当たりGDP
グラフの横軸:年
青線:韓国
ピンク線:北朝鮮


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「自然の」実験としてのヨーロッパによる植民地化


・新世界の発見と喜望峰周航以来、ヨーロッパ人はかつては様々に異なっていたたくさんの社会を支配し、その社会組織(制度)に根本的な影響を与えた。
・地理的、生態学的、気候的なものを含む多くの要因が一定であったにもかかわらず、制度には巨大な変化が生じた。
・結果は?
・植民地化(おおよそ1500年)以前から今日に至る豊かさの変化を見てみよう。


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豊かさを計測する


・これらの問題に答えるため、我々は近代以前における豊かさを計測するための尺度を必要とする。
・都市化は一人当たりGDPの良好な近似となる。
・農業余剰と優れた輸送ネットワークを備えた社会だけが都市化しうる。
・それに加えて、人口密度も指標として用いよう。


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現代における都市化と所得


グラフの縦軸:1995年一人当たりGDP、購買力平価換算(対数)
グラフの横軸:1995年における都市化


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1500年以来の逆転(1)


グラフの縦軸:1995年一人当たりGDP、購買力平価換算(対数)
グラフの横軸:1500年における都市化


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1500年以来の逆転(2)


グラフの縦軸:1995年一人当たりGDP、購買力平価換算(対数)
グラフの横軸:1500年における人口密度(対数)


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植民地化されていない地域においては逆転は生じていない


グラフの縦軸:1995年一人当たりGDP(対数)
グラフの横軸:1500年における人口密度(対数)


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何が起こっているのか?(1)


・地理的な差異ではあり得ない。
 ―地理的条件に変化はない。
・おそらくは、1500年においては有利だった地理的な特徴が、今や有害となったのかも?
 ―この見解を支持する証拠はない
 ―JohnsonとRobinsonによる別の作業によれば」、地理的要因の直接的な効果はほとんどない。
・逆転は社会組織/制度上の変化から帰結するものである。
  ・逆転は人的資本、物的資本、技術革新投資と結びついている。
  ・以前には豊かだった地域で、教育投資がほとんど行われず、生産効率が低い。


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何が起こっているのか?(2)


・相対的によりよい制度/社会組織は、以前は貧しく、人口もまばらだった地域から「創出」してきている。
 ―例:合衆国とカリブ海地域あるいはペルーを比較せよ。
・ことに工業化の時代の間、制度は持続し、所得の成長に影響を与えてきた。
 ―政治権力を持つ者、ヨーロッパ人たちが、別々の植民地で、別々の経済制度を作り上げた。
 ―合衆国北東部の小土地所有、カリブ海における奴隷制、中央アメリカにおける強制労働。


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なぜ異なった制度が?


・搾取するに足る高い人口密度、そして/あるいは資源がある地域においては、「搾取的」な制度を確立する方が収益性が高い。
・自分たち自身が多数派となる地域(すなわち入植地)においては、よりよい制度を確立する方が理にかなっている。
 ―ヨーロッパ人たちはまた、異なった経済制度を支えるために、異なった政治制度を作った。
 ―合衆国においてはより民主的、カリブ海地域、中央アメリカにおいては抑圧的。
 ―結果:物的・人的資本と技術に対する投資へのインセンティブが合衆国においては生じるが、カリブ海地域・中央アメリカには生じない。


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労働市場制度

・ここまでの議論は「大きな」制度についてのもの。
・それ以外の制度的な背景上の特徴もまた、技術にとって関係がある。
 ―例:労働市場の制度
・大陸ヨーロッパにおける労働市場制度は、より大きな賃金圧縮を生み出す。
 ―より大きな不平等
 ―潜在的により多くの失業
 ―技術への含意は?


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制度と技術


最低賃金制、組合、付加給付システムによって生み出される賃金圧縮は、潜在的にはより「技能バランス型」技術の採用を促す。
・合衆国の経験:急速なSBTC。
・大陸ヨーロッパ:SBTCはそれほど急速ではない。
労働市場制度の結果?
 ―より大きな賃金圧縮は、未熟練労働者がより高い賃金を支払われ、その結果、潜在的には、彼らの生産性を向上させた方が、より収益性が高くなる(儲かる)ということを意味する。
 ―大陸ヨーロッパにおけるそれほど急速ではないSBTCに対するありうべき説明。


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結論(1)


・経済成長の至近要因:
 ―人的資本、物的資本、技術。
 ―これらすべてが重要であり、人的資本は万能薬ではない。
 ―しかし人的資本は技術進歩を可能にするにあたって特別な役割を演じる。
 ―人的資本はまた技術進歩の性質を規定する。
 ―不平等と、低開発国にとってのチャンスと落とし穴についての重要な含意。


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結論(2)


・経済成長の根本要因:
 ―コントロールの外にある要因:地理、文化、幸運。
 ―社会によってコントロールされた要因:(インセンティブを形作る)制度。
・制度的な要因が第一義的な重要性を持つことの証拠。
 ―よりよい制度はより多くの人的資本、物的資本、技術への投資へと導く。
 ―技術進歩の度合と性質に及ぼす制度の潜在的な効果。