今更ながらアダム・スミスに学ぶ

 というか『国富論』における学校教育にかかわる議論を整理する。
・スミスは厳密に言えば人的資本論者ではない。彼によれば無給の徒弟制の人的投資効果は見かけだけのものであり、技能習得は基本的にはlearning by doingがもっとも効果的と考えている。learning by doingによる技能向上とそれによる収益増大の効果については深く検討してはいない。
・スミスによれば読み書きそろばんベースの児童への初等教育の義務化、公共政策化の根拠はあくまでも治安政策上のそれである。liberal professionはともかく、labouring poorの労働生活において必要とされる技能と、読み書きそろばんとの間に有意な関係は見出されていない。子どもに読み書きそろばんを公的負担のもとに強制的に身につけさせるべき理由は、どちらかといえば政治的なものだ。かといってそれは近代的な意味での(あるいは革命以降のフランスでの)「公民教育」というわけでもない。「読み書きを覚えれば庶民は政治的・宗教的扇動者に惑わされずにおとなしく堅気の生活を送るだろう」という風にスミスは述べている。本音は知らないが、文字通りとればそうだ。
・スミスによれば高等教育(具体的には大学)と成人教育(具体的には教会)には特段の公的支援は必要は認められない。自由市場に負かされてよい、と考えているようだ。なおスミスは大学を研究機関としてはとらえていない(あるいはその側面についてとりたてて論じる必要を感じていない)。

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究 (下)

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究 (下)