小島寛之による小野善康『不況のメカニズム』讃

http://wiredvision.jp/blog/kojima/200706/200706051021.php
http://wiredvision.jp/blog/kojima/200706/200706120108.php
 内容自体にケチをつけるつもりはないが、気になっていることがある。
 本書での小野先生の議論の骨格自体は、すでに90年代前半には出来上がっていたはずである。学説史的な詮索も、貨幣経済の動学理論』東大出版会)の段階である程度のことは行われていた。その立場からする構造改革論批判も、90年代末以来活発になされていたはずである。本書はその延長線上に、いくつかの新しい論点(乗数効果否定論等)を付加し、、現時点の状況を踏まえての政策提言を行ったものである。
 そして小島氏は2001年の『サイバー経済学』集英社新書)においてすでに、ケインズ=小野理論を肯定的に援用しつつ、議論を展開してたはずである。
 それなのになぜ、今回の『不況のメカニズム』刊行がそれほどまで氏にとって「大事件」だったのか? 


 実は小島氏は2006年の『エコロジストのための経済学』東洋経済新報社)において、ケインズ経済学に対するきわめて深刻な懐疑を表明していた。そこでの記述と今回のこのブログ記事だけを読めば、そこには見事な整合性が成り立っている。また逆に、『サイバー経済学』と『エコロジストの経済学』を読んだだけでも、「あれ、小野理論については考えを変えたのかな」という程度の疑問しかわかない。しかしながらこの三つをすべて読むと、「あれ、小島さんはどうしてこんな風にくるくる考え方を変えるのかな?」と気になって仕方がない。


 それとも今回のご本で、小野先生は決定的に新たな地平へと踏み出されたのに、ぼくがそれを見落としてしまっているというなら、話は別なんだが……。