フィリップ・アギオン

 成長と分配との関係についてはリーディングな研究者のひとりのようなのでメモ。
欧州開銀「移行経済国における制度、市場、経済パフォーマンス」(日本語訳)
http://www.ebrd.com/country/sector/econo/jrpsummjp.pdf
 著者ホームページのpapers
http://www.economics.harvard.edu/faculty/aghion/papers_aghion


 ウィリアムソンとの共著は二つのパートに分かれており、アギオンのパートは共著の理論編。
 とりあえず眺めてみたところまでの主張では、第一に、人的投資に外部経済性があり、資本市場が不完備不完全である場合、所得・富の不平等は人的投資を社会的に最適なレベルより低める――それゆえ所得再分配は成長率を高めうる、というもの。所得再分配による投資機会の拡大の正の効果は、それによるディスインセンティブの負の効果を相殺しうるのみならず、それ自体で正のインセンティブ効果も発揮しうる(所得再分配がないと貧者は富者の投資にただ乗りするインセンティブが生じ、これは当然富者の投資へのディスインセンティブとなる、という理屈。)
 大筋の理屈としては、一昔前の企業理論というか、チーム生産の話と似ている。
 このあとマクロ的なボラティリティと不平等の関係について論じているようだ。


 ウィリアムソンのパートは19世紀末〜20世紀初めの、最初のグローバリゼーションの波に絞って、それが世界レベルでの要素価格均等化、その一環としてのある程度の賃金格差の縮小について論じている。オーリン講義を読んだ人にはそれほどのありがたみは感じられないかも。

追記(9月26日)

 ほぼ同じ内容のJEP掲載の論文が経済学データベースIDEAからダウンロード可能。
http://ideas.repec.org/p/cpm/cepmap/9908.html