『ブログ解読』没原稿

 今回は余裕があって二つ書けたので、不採用になった方をこちらに晒す。

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 今回は開き直って業界の代弁をさせていただく。何かというと「高校必修漏れ問題」である。当該問題について分析した大学教員のブログをふたつ、ご紹介する。
 大屋雄裕(名古屋大、法哲学)は問題が比較的「地方の・レベルの高い公立校」に多いことに注目し、都内の名門進学校で、教員の専門・趣味に走った、面白いが受験にはあまり役に立たない教養主義的教育を受け、受験対策には予備校を利用した自分の体験を省み「これは都市と地方の格差という問題の一変奏なのである」と喝破する。大学受験が全国レベルの情報戦と化し、受験生のみならず高校、大学も大手予備校のコンサルティングを受ける顧客と化して久しい今日、その大手予備校のサービスを十分に利用できない地方の受験生の不利は存外大きい。そして当然のことながらその負担は高校にも回る。地方の進学校は正規の授業に加え、受験指導の責務も負わざるを得ないのだ。同様のことは生徒が器用に予備校を利用しきれない「レベルいまいちの私立校」(その後私立トップ校灘高の例が発覚したが)にも当てはまる。「おおやにき」http://alicia.zive.net/weblog/t-ohya/archives/000363.html
 一方辻大介(関西大、社会学)は「「受験戦争」だとか「入試地獄」だとか、いつの話を引いてるんだ。各新聞社の社説をみても、オチは揃いも揃って、大学入試制度改革」と報道に苦言を呈する。大学だってかつての「一芸入試」以来、あの手この手の入試改革に一貫して取り組み続けている。加えて少子化で「大学全入」も目前の今日、既に多くの大学が定員割れしている。ただ大学に入るだけなら、今日び少しも難しくない。
 だから辻も指摘するとおり、これは古典的な「受験戦争」=受験生間の競争、ではなく、進学実績をめぐる高校間の競争=「(少子化による)構造不況の業界での生き残りを賭けた「競争」」の所産である。受験生という顧客に媚びた商売の、ちょっとした暴走の帰結なのだ。しかしこういう商売っ気を瀰漫させる「競争」を大学、高校を含めた教育界に対して奨励してきたのは、政府、マスコミの皆さんではなかったでしたっけ?(「思考錯誤」http://d.hatena.ne.jp/dice-x/20061105#p1
 実際、大学はご要望にお応えしてあれこれ入試改革に取り組み、受験生というお客様の取り合い競争をしてきたし、何よりそのお客様のご要望にお応えして、「ゆとり教育」のはるか前から、入試科目を減らし続けてきた。つまるところ「受験戦争」緩和に、大学は率先して取り組んできたのだ。これ以上何をしろというんですか? 
 まとめて言えば今回の事件は「大学入試が全体として楽になってきている中、相対的に中央と地方、名門と中堅以下の格差が開いてきている」ことを示している。その格差を埋めるべく多くの地方および中堅の進学校が選んだ道が、悪い意味での「予備校化」だったわけである。そこを見誤って「受験戦争の弊害」などという風に今回の事件を解釈してしまうと、そこから出てくるだろう対案というのはろくなもんではない――ますます高校教育の中味をスカスカにし、受験生を甘やかす方向に流れるのみだ。ではどうしたらよいのか? いっそセンター試験を全科目全受験生に必須化する、というのはどうですか?