『月に繭 地には果実』(続)

 読み終わりました。
 ロラン君とソシエさんはニュータイプだったのか!
 キエルさんはカテ公だったのか!
 結局『逆襲のシャア』『Vガンダム』のやり直しだったのか!

 評判はいいけど、たしかに技術的には標準的なノベライズをしのいでいるけど、私としては駄目でした。テレビのアニメ版のほうがずっといい。
 第一に、主人公のはずのロラン君にまったく生彩がない。魅力がない。あまり賢くないながらも、紛争を激化させまいと前線で根性据えてふんばり、それなりの成果を挙げていたアニメ版に比べると、ほんとにただ状況に流されているだけのヘタレになっている。その結果物語はアニメとは異なる一大カタストロフ、大殺戮へと突入し、そのカタストロフをぎりぎりのところで喰い止めるべくロラン君大活躍、というわけだが、どっちのロラン君がかっこいいかと言えば、そりゃアニメの方だよ。
 第二に、ロラン君とソシエさんの間の恋愛感情にまったく説得力がない。アニメではロラン君は、そばにいる人に対してついふらふらなびいちゃって、ディアナ様がいればディアナ様、ソシエさんがいればソシエさん、と節操のないただのさかりのついたガキだが、そのようなガキとしてのリアリティはあった。(こういうあっちにふらふらこっちにふらふらはガンダムヒーローとしてのお約束ではないか。)彼はディアナ様もソシエさんもどちらも本当に好きだったということはよくわかった。しかしこの小説版は……。
 第三に、全体としての設定、世界観をアニメ版よりもきちんと作りこんでいるにもかかわらず、結果的にはより図式先行の、荒唐無稽でご都合主義的なお話になってしまっている。たとえば、ギンガナムとターンXはいてもいなくても一緒で、ただ単にロランと∀ガンダムの強さを例証するために出てきたに過ぎない。またアニメではほぼ無視されていた「ニュータイプ」の概念が出てきて、ロランとソシエの運命的絆や、ムーンレィスの業の根拠付けに使われるあたりもうざい。あまつさえ∀ガンダムがテレポートしたり、最後のカイラス・ギリの巨大ビームからたった1機で地球を守ったりというあたりはまんま『逆襲のシャア』でもう笑うしかない。

 結論的に言えば『クロスボーン・ガンダム』の方が荒いけど面白いということだな。