- 作者: 新井紀子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/02/02
- メディア: Kindle版
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いずれにせよ著者が心配するような意味での「AI大恐慌」による大量失業はないだろうと思う。「変化が急激すぎて労働市場の調整が間に合わない」という危機感はわかるんだが、そもそも恐慌というのは信用経済上の現象であって、労働市場の調整不全が直接の原因になることはあまり考えられない。
もし「AI大恐慌」なんてものが起きるとすれば、それは大量失業とかが引き金になるわけではない。そもそも短期的な大量失業は恐慌の結果として起きるのが普通で、それ自体が恐慌の原因とはなるまい。AI化で人員整理がスムーズに発生し、失業が徐々に蓄積していく中、それをリカバーするだけの新規雇用が生まれない――となれば緩やかに賃金の生存水準への低下と格差の拡大が起きてはいくだろうが、それだけでは恐慌にはなるまい。
仮に「AI恐慌」なんてものが起きるとすれば、たとえば既に人員整理を済ませて「雇用なき成長」を引っ張るAI法人企業(従業員がいない)の企業価値がバブル化し、それが弾けることによってではないか。しかしそこで大量倒産が起きたとしても、元から従業員がいないんだから必ずしも大量失業にはならない? とか。
あとやはり気になるのは読解力危機の問題である。「みんな意外と普通の文章が読めない」という事実発見は非常に偉大だが、次は国際比較と歴史的観点が欲しい。ぶっちゃけて言うと「これは「読解力低下」なのか、それとも実はもともと低かったのが、学歴インフレーションの中で明るみに出ただけなのか?」ということである。