地下沢中也『預言者ピッピ(2)』(イースト・プレス)

預言者ピッピ(2)

預言者ピッピ(2)

 ついに出た。
 1巻ではウェルメイドなSFという感じだったのだが、2巻、しゃべる猿のエリザベスの登場を経て、非常に本格的な神学説話に突入している。これはおそらくかなり意識的になされている。たとえば書き下ろしの「フレア(1)」「兆し」章冒頭での科学者と禅僧の対話、『臨済録』から例の「仏に逢うては仏を殺し」が引かれているところや、エリザベスが悪を「悪ふざけ、嘘、詐欺師」と断じるあたりに明らかである。
 万能知性ピッピは明らかに「予言者」を超えた「預言者」になりつつあるが、それは偽の神あるいはアンチキリストに他ならない。ただ彼にはどうやら悪意があるわけではなく、より超越的な悪にたぶらかされているだけらしい。そしてその悪とはエリザベスに言わせればただの「悪ふざけ」である。
 そしてもちろんエリザベスはキリストなのであるが、真のキリストがそうであるように無力である。彼女は真実を看破し、弱き者の傍らに寄り添うだけだ。