新刊いろいろ

 買い込んでますがこれがなかなか。いや原稿が追い込みで。月末は無理だと思うんですが。


和田伸一郎『メディアと倫理』(NTT出版)
http://www.bk1.co.jp/product/2636312?partnerid=p-inaba3302385
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4757101759/interactivedn-22
 わかりやすかったので一日で読めました。「テレビが人を見捨てる」とか「ネットの匿名掲示板がなぜ憎悪を煽り立てるのか」という話は大変明快です。自分にはどうしようもない惨状を見せ付けられ、道徳的に脅迫されたような気がして逆ギレするというわけね。
 しかしよくわからないのは「映画は人を救済する(できる)」という話。これがわからんのは、私が映画好きじゃないからかなあ。映画はテレビと違って公共空間を作る、というだけではなく(それなら映画館の衰退とホームビデオの話をもっとちゃんとしないと)、人を個室に退きこもらせるだけのテレビやネットと違い、映画は(あくまでも公と対になったものとしての)私によりそうことができる、という話(をしたいんじゃないの?)ができないと。
 それから、全体の論旨としてはやっぱり、技術決定論でも、また個人に努力を強いる精神論、モラリズムでもなく、人が倫理的であることを可能にするような公共空間の構築を目指そう、という話なんでしょうが、議論が後半に行くと公共空間に己を晒す「覚悟」なんて言葉がキーワードになるあたり、危ういものを感じます。


ロドニー・ブルックスブルックスの知能ロボット論』オーム社
http://www.bk1.co.jp/product/2635570?partnerid=p-inaba3302385
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4274500330/interactivedn-22
 かの「表象なき知能」「サブサンプション・アーキテクチャ」「Cog」で有名なブルックスの自伝プラス自律型知能ロボット論。大変面白い。知性や意識をめぐる哲学談義への介入や、ロボットの社会性についての議論ももちろん面白いのだが、ことにグレイ・ウォルターという人物、40年代にすでに「表象なき知能」を地で行くロボットを作っていたという脳科学者の話には驚嘆した。
 さてブルックスさん、ご自分でも会社立ち上げていろいろなさっているわけだが、ヒューマノイド極秘開発中の(と後に判明した)ホンダに招かれ、無礼な扱いを受けて激怒したエピソードには笑った。そうだよな、自分たちの研究内容は秘密にしといて、「先生のご高説を是非(=あんたの研究内容を教えろ)」もないもんだ。


ミチオ・カク『パラレルワールド日本放送出版協会
http://www.bk1.co.jp/product/2625900?partnerid=p-inaba3302385
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140810866/interactivedn-22
 著者は邦訳されたひも理論の教科書も書かれた、理論物理の大家だという話ですが、本書は宇宙論の啓蒙書です。もろマルチバース(多宇宙)論。
 バクスタージーリー》クロニクルやイーガン『ディアスポラ』読者は必読。いやつまりそういう話なんですよ。無限に広がりやがてビッグ・フリーズ(熱的死)を迎える宇宙から人類(の後継者)はいかにして脱出するのか、という。スゲー。


 大学院の先輩からいただきもの。
菅沼隆『被占領期社会福祉分析』ミネルヴァ書房
http://www.bk1.co.jp/product/2630290?partnerid=p-inaba3302385
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4623045315/interactivedn-22
 アメリカ側の一次資料を駆使して、占領期における日本の公的扶助システム(主に旧生活保護法)の成立プロセスを分析する。
 今後の日本社会福祉制度研究のベンチマークとなるであろう著作だが、もう少し早く(せめて最初の脱稿後の2002年中に)出てほしかった。実際著者自身の研究も次のステップに進んでいるわけだし。