アメリカの「構造問題」

 昨夜はSDS(Students for Democratic Society、まあ左翼の大学生の集まりですな)主催の、ニュースクールの経済学者ダンカン・フォーリーの講演に行ってきた。フォーリーもSDSのOBで、公共経済学で古典的な業績を挙げて以降数理マルクス経済学や経済思想史に注力しているのだが、まあ現今のアメリカの経済危機について話す、というのです。
 しかしフォーリーによれば今次の危機は単なる金融恐慌というよりアメリカ帝国主義の行き詰まりを現す、というのですよ。まあ昔のような単純素朴な帝国主義論ではなく、基本的に帝国主義を政治レベルで、外交戦略の問題としてとらえ、それが途上国の経済発展をゆがめたことは強調するが、従属理論的な解釈は避けていた(「経済発展についてはまだいろいろ議論がある」等々、少なくとも「先進国の搾取が」みたいなアジはしなかった)のですが。
 要するにアメリカの巨額のインバランスがもはや維持できない、今次の危機はその徴候だ、というのね。あとBailoutについてはすごく怒ってた。「あの金はどこへ消えたんだ? 国民の血税で銀行を救うのか?」(大意。ヒアリング能力が低いのでよく理解していない。誤解を与えるようならフォーリー教授には謝ります)てな感じで。
「先生、私今のお話を伺いまして、20年ほど前に「日米構造協議」にからめてやはりアメリカの「双子の赤字」のサステナビリティが大問題になってたことを思い出したんですが、その時と今との最大の違いって何ですか? 関連して、90年代日本の不況と、今次のアメリカの危機との最大の違いは何でしょう?」と聞きたかったが時間がなくてうまく質問をまとめられなかった。今度メールを出してみよう。


 しかし話を聞いていて「いやこの人もマルクス主義者なのだな」と思う反面、himaginaryさんのブログのことも思い出さずにはいられなかった。

米国の双子の赤字が問題になった80年代以来、債務国であることの問題がいつかは出てくるだろう、ということが囁かれ続けてきた一方、いや、唯一の超大国で世界最強の軍事力と基軸通貨を持ち、人材を世界から引き寄せ続ける自由経済と民主主義の体制を誇る国は、海外からの投資を受け入れ続けても問題ないんだ、という主張も根強くされてきた。しかし、その強大な軍事力がイラクで泥沼にはまり、基軸通貨の地位はユーロの出現で脅かされ、911後は移民への規制強化が進んだ上にご自慢の民主主義も怪しくなってきた。そこへサブプライムローン問題が起きたので、ついに債務国であることの弱点が顕在化しはじめたということか。

だが、Duy氏の主張するように米国が構造改革に努めて経常赤字を解消したら、世界全体では需要不足に陥ってしまうだろう。アジア危機後、海外資金に懲りた東アジア各国が貯蓄超過になるよう勤しんだ時には、米国がその余剰資金の受け皿になったが、その米国が貯蓄超過に転じたら今度は受け皿がない――中国やインドはその穴を埋めるにはまだ力不足と思われる。

その時は現在のグローバリズムも終わりを告げる、とまでは行かないまでも、変質せざるを得ないだろう。

http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20080913/us_is_not_japan


 この世界的需要不足への懸念は聴衆からも表明されていたような気が。