金融安定化法案修正案、上院で可決

したようなので、関係は直接はないのだが、枝野議員朝生発言をめぐってはてな界隈をメモ。

枝野氏の発言では「貸出金利は上げずに、預金金利だけ上げるべきだ。」となってますので、政府が直接金利を規制する、社会主義・計画経済的な手法だと言えるでしょう。

与謝野氏の方法では利上げで普通に景気が悪くなるだけですが、枝野氏の方法だと預金金利だけを政府が強引に挙げた結果、銀行は預金を拒否し始めるでしょう。そうなると、銀行が資金を貸し出して借りた側がそれを預金するという信用創造のメカニズムが働かなくなり、マネーサプライは急減し、与謝野氏の手法とは比べものにならないくらいの大不況となってしまうと思います。

http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20080930

まず、預金金利を貸出金利並みに引き上げることによる一次的な効果は、金利収入の増加である。これは可処分所得の押し上げやキャピタルゲインの増大に直結するが、このことは消費を増加させる。現状では貸出金利と預金金利金利差は1.1%から1.4%程度であるが、金利差が縮小することで実質消費は0.36%から1%程度、実質GDPは0.2%から0.6%程度高まる。

 しかし話はこれで終わらない。金融機関の視点に立てば、預金金利を貸出金利並みに引き上げることは預貸利鞘をゼロにすることを意味する。預貸利鞘がゼロになってしまえば金融機関は業務純益の殆どを失うことになるだろう。貸出金利を上げることが出来なければ信用創造は停滞する。さらに貸出金利を上げて収益を回復しようとすれば企業の借入コストは高まり投資は停滞し、経済にはマイナスのインパクトが生じるだろう。このように考えていくと、預金金利を引き上げることは結局のところ短期金利及び長期金利全般を引き上げることに等しい。

 そして枝野議員の指摘は最近の預貸利鞘の動向を見るかぎり本末転倒でもある。上記で指摘したが、近年預貸利鞘を増加させている要因は市場金利と預金金利の差である預金スプレッドが上昇しているためであり、貸出金利と市場金利の差である貸出スプレッドは趨勢的に低下している。預貸利鞘を増加させている預金スプレッドの上昇が問題であるのならば、預金金利を高めに設定しない金融機関のみを批判するのではなく、市場金利に直結する政策金利の引き上げを行った日本銀行に対しても等しく金融機関の利益増大に繋がるむやみな利上げを行うべきではないと指摘すべきなのである。つまり、枝野議員は自家撞着に陥っているのである。

http://d.hatena.ne.jp/econ2009/20080930/1222777102

「再分配はポルポト」並みに牽強付会な話だと思います(実際、ジンバブエ・フラグを立てている気の早い人がチラホラ)。行政指導なのだから、預金を受け入れられなくなるようなことを銀行が従うはずもない。その場合、「信用供与機能を損なう」のではなく、せいぜい「政策として効果がない」というようなところでしょう。
 で、銀行にレントなんかあるんでしょうか?銀行業界というものが、ゼロ利潤条件が成り立つほどの理想的完全競争市場であるとでも言うんなら別ですけど、直感的にもそんなことはあるわけないのであって。だとすれば、そこになにがしかのレントはあるでしょう。まして、従来から言われているように、この業界には「ピンチになったら公的資金」という暗黙の了解に起因するモラル・ハザードがあるような市場ですし。だから、レントは、あると言えばあるでしょう。(だからどーした、とも思いますが。)

 ただ、それを吐き出すインセンティブなんかないわけです。だから、行政指導で、そして、そこに国民の視線を集めることで、いわばいたたまれない気持ちにさせて、それを吐き出させよう、と。市場的な圧力では吐き出さないので、政治的な圧力で吐き出させよう、というわけです。重ねていいますが、相当泥臭いです。ただ、ちゃんと合理的選択理論のフレームに乗っている話ではありますよね。その意味で、それほどとんでもない話というわけではないように思います。(重ねて言いますが、だからどーした、とも思いますが。)

 ただまぁ、「預金金利を引き上げろ」って、他に、なんか方法あるような気もしますし(たとえば、率直に課税とするとかできないものでしょうか?)、なぜに預金金利なのかよくわからないのですが、そういう意味で私見では筋が悪いように思います。これも重ねていいますが、よくわからないので確定的なことはいえませんけど。(あまりにも聞いたことがない話なので。場合によっては、先の「だからどーした」について、認識を改める必要があるかもしれません、くらいは言っておきます。とりあえず。)

 いずれにせよ、声を大にしていっておきたいことは、「与謝野氏の手法とは比べものにならないくらいの大不況となってしまう」はさすがに無茶だ、ということです。まだしも、貸出金利はあげちゃいけないことがわかっている分、枝野の方がマシではないじゃないんですかね。とさえ思いますが。

http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20081002/p2


 こう対比してしまうとポイントは;


*「行政指導なのだから、預金を受け入れられなくなるようなことを銀行が従うはずもない。その場合、「信用供与機能を損なう」のではなく、せいぜい「政策として効果がない」というようなところでしょう。」ですむのか、すまないのか?


*仮に銀行にレントがあるとして、それは銀行があくどく儲けているからなのか? 銀行の増益の源泉が預金スプレッドにあるとして、市場金利の上昇に比べて預金金利の上昇が遅れている理由は何か? 


ということになるのでは。

追記

# 2008年10月03日 himaginary himaginary 預貸金利差で稼げなくなった銀行は、預貯金ビジネスから手を引き、より収益の高いビジネスに傾斜していくでしょう。…あれ?それって今金融危機で苦しんでいるどこかの国で既に起きたことのような…。

http://b.hatena.ne.jp/himaginary/20081003#bookmark-10248237

「成長と不平等・再分配のマクロ経済学」関連

 世界レベルで目立つスター研究者として


 90年代にシュムペーター的内生的成長論で注目されたフィリップ・アギオン
http://www.economics.harvard.edu/faculty/aghion
 マクロ数理政治学トップランナーでもあるらしい、クラークメダルをとったダロン・アセモグル
http://econ-www.mit.edu/faculty/acemoglu/
 数理政治学行動経済学にも手を出しているっぽいロラン・ベナブー
http://www.princeton.edu/~rbenabou/


あたりをベンチマークとして、彼らが啓蒙的な文書やサーベイ論文を書いていればチェックしていくといいと思う。(クルーグマンみたいな筆達者はいないようだが、アギオンなら先の欧州開銀のものやJPEの共著論文、アセモグルならニュージーランド財務省ペーパーや講演用パワポ、ベナブーならHandbook寄稿論文、でなんとかしよう。)ここから共著者などを芋づる式に手繰っていけばかなりの量の仕事が出てくるはずだ。
(なおアセモグルの若い時の論文に、多くの場合「定型化された事実」としてカッコにくくられている「人的資本の外部効果」の発生メカニズムそのものを解明しようとした野心的な作品があった。)
 基本線としてはたぶん、現今の不平等の主因を人的資本格差に求め、かつ、資本市場の不完全と人的資本の外部効果の存在の下で、再分配によって平等化と成長を同時に実現する可能性を追求する――という感じか? 
 これだと「貧困者は富者に搾取されているから貧しい(もちろんマルクス=ローマー的な意味で「搾取」はされているだろうが)」のではなく、「貧困者の富者の人的資本へのただ乗りが成長を抑制している」といったニュアンスだな。いずれにせよ「なぜ貧しいのか、誰が悪いのか」ではなく、「「貧すれば鈍する・損する」のは貧困者だけではない、この悪循環を断て」という発想だ。


 で、私が何をしてるかって? 
 内生的成長論の「きほんのき」ということで、オイラーラグランジュ方程式をいじったあとは古典のLucas88年論文をノートを取りながら読んでますよ。ええ、ちゃんと式の導出過程を自分で追ってます。計算だけで証明とかのない、比較的簡単な部類の論文なんだろうけど、それでもしんどいのなんの。そういう簡単な計算――もろくに追えないくらいこちとらなまってるのだが、大事なのは数字と記号に溺れず「何のためにこの計算をしてるのか」を常に頭に浮かべながら読むことなのね。
 お勉強ではなくアウトプットの方は、On "Benevolent Totalitarianism"が1万2千語強と長すぎて、ちょっといじったくらいじゃ大概のジャーナルに長さのせいで門前払いとなりそうなので、対応を検討中です。「長いのもオッケー」のところに出すか、素直に二分割か。火曜日のセミナーの反応もみなければ。英語圏に出す価値はあるのか。
 あとは某社から出す予定の社会学入門教科書(以前話題にしたオールスター共著ではなく、単著)に追われてます。夏休みに集中してがーっと半分(「社会学の外堀」)は書いたんだが。このあとがわしの苦手な「社会学の本丸」です。
 というわけでこの間入れるのは経済学、出すのは政治哲学と社会学、という感じ。すごく変。本当は逆のこともしたいけど、たぶんそんな日は永久に来ない。

橋下知事公約撤回

http://www.47news.jp/CN/200810/CN2008100201000282.html
 大阪府民じゃない(それどこかいま日本にいない)身でこんなこと言うのは無責任だろうけど。
 これはもうさあ、府民の皆さんはなめられてるんだから、リコールでも何でもすればいいんじゃね? 日教組も、連合に話を通して、府教組を全面バックアップして、ストでも何でもすればいいんじゃね? 
 小泉や石原のまねをしてるんだろうけど、言っちゃ悪いが役者が違うんだし、ろくな援軍などこの人にはないよ。イエスマンの一部府官僚だけだろ。