中野剛志『国力論』半分くらい読んでげんなり。合評会に行く気はほぼ消滅した。
*リストを論じて何で『農地制度論』に触れないの? せっかく小林昇訳の日本語版が利用できるのに。こちらでは植民・移民の問題も議論されてるのに。
ちなみにリストは日本では愛されてよく読まれてますよ。小林昇をはじめとして日本のリスト研究は世界水準というのが常識では? 何でそれを無視するの?
*私見ではヘーゲルはスミスもリカードもよく理解できていない。彼の経済論の下敷きはむしろジェイムズ・ステュアート。
*ポーコック以降のいわゆる「シヴィック・ヒューマニスト・パラダイム」論者も別にアダム・スミスがリベラリストであることを否定してはいないと思うけど。「シヴィル・リベラル・パラダイム」なんて対語もあったと思うけど。ホント&イグナティエフ編『富と徳』とか。
*何で英語圏でも広く読まれている村上泰亮について論じないの? そもそも著者の政策提言は村上の焼き直しの域を出ない。産業政策・幼稚産業保護論とか。あとマイケル・ポーター『国の競争優位』も無視。
*新古典派経済学批判は典型的な藁人形論法。そんなもんは彼らに言わせれば「君らのいる場所は我々はすでに三十年以上前に通過しているッ!」で、はい、終了。
そもそも、新古典派の方法論的個人主義の枠組を使っても、著者の経済ナショナリズムの主張は完璧に、より明快に語り直せる(「戦略的通商政策」って、そういうやつでしょ)はずだから、この本の作業そのものが無意味。
*解釈学がお好きなようだけど、解釈学はあくまでもメタ理論であって、それには固有の意義があるけれども、オブジェクトレベルのベタな理論の代わりには決してならない。
*エタティズムとナショナリズムを分けるのは悪くないけど、オリジナルでもない。
*それでもあえて経済ナショナリズムを弁護するとすれば、「戦略的通商政策」の筋で攻めるより、むしろ内生的成長理論の枠組を使った方がよいのでは。つまり人的資本の外部経済性と、奨学金市場の不完全性とを前提とすれば、再分配政策で経済成長と平等化の二兎を追えるチャンスがある、ってベナブー風の議論。「ネイションとは、人的資本の外部性が及ぶ範囲のことである」というわけだな。
というわけでこんな本読んでも時間の無駄ですよ皆さん。代わりに
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追記(5月9日)
これは明後日の方向を撃つことになるかもしれないのだけれど。
中野氏は西部邁氏の薫陶を受けたということであるし、『経済はナショナリズムで動く』には西部氏があとがきを寄せておられる。ぼくははっきり言ってこのこと(書かれた内容にではなく、書かれたということそれ自体)にいたく失望している。
先に「三十年前」と書いたのは具体的には西部氏が『ソシオ・エコノミックス』を書かれた時代、故村上泰亮氏が『産業社会の病理』『文明としてのイエ社会』を、そして青木昌彦氏が『企業と市場の模型分析』を書かれた時代のことを念頭に置いている。「経済学第二の危機」が叫ばれ、ラディカルズや西部氏らによる新古典派批判がなされ、それに応えるべく情報の経済学や制度の経済学が急速に発展し始めた時代のことを。
本来西部氏は「君らのいる場所は我々はすでに三十年以上前に通過しているッ!」と中野氏をしかりつけるべき立場におられるはずなのだ。「なぜ君は村上泰亮先生を無視するのか」「君は果たして、ぼくらが三十年前に既に考えていた以上のことを考えているのか」と詰問すべきなのだ。
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