・80年代以降のHIV文学もやや類似した展開を示す。
・「極限状況」「不条理な運命」の体現としての感染症
・文明批評小説・SFにおける感染症――「破滅テーマ」の一例
メアリー・シェリー『最後のひとり』
ジャック・ロンドン『赤死病』
ジョージ・スチュワート『大地は永遠に』
――個人の運命より人類文明総体がテーマ
・パニックものにおける感染症
一部のマニア向けのSFではなく、より広範な大衆向けのエンターテインメントのテーマとしてカタストロフが定着するのが1970年代
先駆けとしてのマイクル・クライトン『アンドロメダ病原体』
メディアミックスの走り、小説は報告書の体裁をとっており、実験文学の系譜をひくと同時にビジネス書のテンプレートも踏まえている。
90年代以降、現実のエボラなどの展開をふまえて、新興(エマージング)感染症をテーマとした小説・映画も多数作られる。先駆けとしてのノンフィクション『ホット・ゾーン』(リチャード・プレストン)とそのドラマ化、また『アウトブレイク』など。
「可能性としては人類の破滅につながりかねないが、それ自体はローカルな危機管理」の一例であり、すなわちパニックムービーの一ジャンルとして位置付けてよいだろう。
――かつての実存的?問いかけは後退する一方、リアリズム志向が強まり、現実の感染症学や危機管理を踏まえた内容になっていく。
・再び文明論・実存の回帰?
これはまたウィリアム・マクニール『疫病と世界史』以降、「人類文明を左右する根本因子としての感染症」という認識が定着したことの帰結でもある。
以下二例のみ挙げる――
朱戸アオ『リウーを待ちながら』――あからさまにカミュ『ペスト』をオマージュしつつ現代的にバージョンアップしている。
参考:
小川公代/小倉孝誠/ピーター・バナード/巽孝之「座談会:文学に現れる感染症」(『三田評論』2000年11月号、https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2020/11-1.html)