田中ユタカ『愛しのかな』(竹書房)

愛しのかな 1 (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

愛しのかな 1 (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

愛しのかな(2) (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

愛しのかな(2) (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

愛しのかな 3 (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

愛しのかな 3 (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

 某古本屋でざっと立ち読みしたのだけれど……『愛人』に勝るとも劣らぬ良作にして怪作(しかしこれって成年コミックではないのね)。もちろん所詮はポルノ=「ありないほどもてなしのよい世界についてのファンタジー」なんだけど……、何なのかな「現実世界から離れるためのファンタジー」ではなく「現実世界へとたどり着くためのファンタジー」なのね。
 もちろんそうした「現実世界へとたどり着くためのファンタジー」とはそれこそ児童文学においては定番なのではある(そしてこの美少女エロマンガは「児童向け」ではもちろんないがすがすがしいまでに「青少年向け」、ジュブナイルではある)が、時にイデオロギー化しがちで辟易してしまう。ぼくはエンデの作品にはそういう臭みを感じてやまない。むしろ痛々しいまでに現実を拒絶しようとあがく『ナルニア』のルイスの方が逆説的にも教育的ではないかと思う。
 しかしここで田中ユタカは、一見普通に教育的ファンタジーを書こうとしているように見えて、しかしそこからも微妙にずれている感じがするのだ。エンデその人はさておき、はきちがえたエンデ主義においてはゴールとして目指される「現実世界」が皮肉なことに一種の「理想」に堕落してしまう危険がある。だが田中はうまくそうした罠をすり抜けているようだ。
 しかしこの人はいったい何者で、どこへ行くんだろう。


 しかしまんが史的にいうと、先達は何に当たるのだろうか。成仏せずにずっとそこにいる幽霊ヒロインといえばあろひろし『優&魅衣』だが、そのラストでは成長し老いる主人公たちと、いつまでも若いままのヒロインとの対比がいくばくかの寂寥とともに提示されるのに対して、本作では敢えてそうした描写は行われていない。やや似たテイストを感じるのは長谷川裕一の短編「探偵ファントム」であるが、よくわからん。