ハンス・アビング『金と芸術 なぜアーティストは貧乏なのか』(grambooks)

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 文化・芸術経済学の好著。アーティストとか学者とかを目指す若者必読。
 何だかんだいって芸術には威信があり、愛好者は無論のこと、それを需要しない人々でさえその権威を認める。ゆえに市場ベースでは採算がとれずとも芸術にはメセナや公的助成がなされる。そして人材は供給過剰となり、一部の勝ち組を除けば貧困に甘んじざるを得ない。その貧困にもかかわらずアーティスト志願は、一部はそのリスク愛好性ゆえに、また一部は芸術そのものの威信へのより強いコミットメントゆえに、市場からなかなか去らない――。
 自身アーティストで、副業として長く大学の経済学非常勤講師を務め、現在は芸術経済学教授である著者は、経済学者としては、この市場の歪みを正すために公的助成は縮小されるべきと考える一方、アーティストとしてはそういう主張にコミットすることに胸の痛みを感じている。しかも面白いのは、この芸術助成縮小論はただ単に彼の中の経済学者だけがいわせているのではなく、その背後にある、文化・芸術政策論にありがちな芸術のメリット財・公共財的性格の強調への懐疑は、ほぼ間違いなくプロのアーティストとしての著者の実作・営業経験によっても裏打ちされているということだ。