浦田憲・吉町昭彦『ミクロ経済学』(ミネルヴァ書房)

ミクロ経済学―静学的一般均衡理論からの出発 (Minervaベイシック・エコノミクス)

ミクロ経済学―静学的一般均衡理論からの出発 (Minervaベイシック・エコノミクス)

 近々刊行予定の林貴志『マクロ経済学』がその入門書というにはあまりに狂った内容で噂になっているのだが先行して市中に出回り始めた同シリーズのミクロもまた同じくらい狂っていたでござる。

緒  言
序 章 経済学理論について
 市場と自由
 個人と社会
 合理性と経済学

第1章 基礎的概念
 1.1 経 済
  1.1.1 経済と人間  1.1.2 経済の語源
 1.2 交 換
  1.2.1 交換と交易
 1.3 商 品
  1.3.1 共通の様式を持つもの  1.3.2 商品空間
 1.4 価 格
  1.4.1 価格空間  1.4.2 価値の理論ということ
 1.5 消費と生産
  1.5.1 行為としての消費と生産  1.5.2 価値と行為
 1.6 日付と出来事
  1.6.1 日付と出来事(Date-Event) および市場
 1.7 貨幣と市場
  1.7.1 歴史的な貨幣  1.7.2 流通貨幣(通貨)と銀行
  1.7.3 貨幣と今日的な市場構造
1.8 市場と均衡
  1.8.1 市場と予想そして均衡と合理性
  1.8.2 予想と貨幣(世代重複モデルと貨幣的均衡)
 1.9 我々の世界観は果たしてどこまで広くなったのか
 1.10 現実社会の諸相
  1.10.1 グローバルな金融市場  1.10.2 飢餓と貧困・自由貿易
  1.10.3 原発事故を巡って

第2章 個人の選択と社会の状態
 2.1 選  好
  2.1.1 合理的選好  2.1.2 効用関数表現
  2.1.3 補論─辞書式選好  2.1.4 顕示選好の弱公理
  2.1.5 補論─選択対応
 2.2 社会選択
  2.2.1 アローの不可能性定理
 2.3 均衡と合理性
  2.3.1 非協力ゲーム  2.3.2 合理性の共通認識
  2.3.3 ナッシュ均衡  2.3.4 純粋戦略と混合戦略
  2.3.5 ナッシュ均衡と非協力ゲームの解  2.3.6 期待効用

第3章 消費および生産の理論
 3.1 消費の理論
  3.1.1 効用最大化問題の解
  3.1.2 好ましさの向きを代表するベクトル  3.1.3 顕示選好理論
  3.1.4 双対分析  3.1.5 価格効果・代替効果・所得効果
 3.2 生産の理論
  3.2.1 利潤最大化問題の解  3.2.2 技術と時間および不確実性
  3.2.3 双対分析  3.2.4 部分均衡論のための費用関数と供給関数
 3.3 補論─制約条件付最大値問題

第4章 均衡分析とその応用
 4.1 部分均衡と余剰分析
  4.1.1 準線形の効用関数  4.1.2 需要曲線と供給曲線
  4.1.3 余剰分析
 4.2 一般均衡と厚生
  4.2.1 エッジワース・ボックス・ダイアグラム
  4.2.2 ワルラス法則と模索過程
 4.3 投入産出分析
  4.3.1 GDP等価  4.3.2 国民経済とLP双対問題
  4.3.3 斉一成長経路とフォンノイマン成長モデル
 4.4 ケインズ均衡
  4.4.1 IS-LM 分析
 4.5 国際経済と交換のはたらき・その他
  4.5.1 弾力性  4.5.2 くもの巣理論
  4.5.3 比較生産費説─リカードの定理
  4.5.4 へクシャー=オリーンの定理  4.5.5 要素価格均等化命題
  4.5.6 国際貿易その他の定理

第5章 経済学的均衡の存在・一意性・安定性及び動学
 5.1 不動点定理と静学的一般均衡
  5.1.1 非協力ゲームとナッシュ均衡  5.1.2 抽象経済
  5.1.3 一般均衡厚生経済学の基本定理
 5.2 超過需要関数からのアプローチ
  5.2.1 顕示選好関係  5.2.2 粗代替性
  5.2.3 超過需要関数とベクトル場  5.2.4 正則経済
  5.2.5 スペルナーの補題とスカーフのアルゴリズム
  5.2.6 ベクトル場のインデックス
 5.3 一般均衡の動学的問題に向けて

第6章 不完全競争・市場の失敗・非対称情報
 6.1 独占・寡占
  6.1.1 寡占市場におけるゲーム論的均衡
  6.1.2 寡占市場を含む一般均衡  6.1.3 法と経済
  6.1.4 自然独占と限界費用価格付け
 6.2 公共財と市場の失敗
  6.2.1 外部性
 6.3 情報の非対称性
  6.3.1 非対称情報
  6.3.2 非対称情報と市場の一般理論―市場の生き残り問題
 6.4 不完備情報と不完全情報
  6.4.1 展開形ゲーム  6.4.2 ナッシュ均衡の精緻化(Refinement)
  6.4.3 繰り返しゲーム(Repeated Game)
 6.5 今日的な経済学理論の構成形式
  6.5.1 公理的特徴付け  6.5.2 社会選択関数
  6.5.3 メカニズム・デザイン

終 章 経済学という世界観
 経済学の方法論
 経済学という世界観
 経済学と倫理(社会と社会外)

索  引

 内容的には中上級トピックやマクロの話題までてんこ盛りでござる。世代重複と貨幣とか普通上級マクロだろう。
 本文を実際にのぞくと目次を裏切らないさらなる狂いっぷりでござる。ぜひ店頭で手にとってご覧いただきたい。ヒースの『資本主義が嫌いな人のための経済学』を読んで真面目に勉強してみたくなった方に特にお勧めする。
 とりあえず一言だけ引用する。

 さて、しかし逆の言い方も可能である。ここまでむやみに発行しておいて、ここ一番、大震災などという国家の重大時というところでなぜ発行をしぶるのか、理解に苦しむところである。

 何の発行かは言うだけ野暮であろう。