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 ドーア先生。


現代日本法へのカタバシス

現代日本法へのカタバシス

 出てしまった。表題作である戯作「カタバシス」の他関連論文がいろいろ収録されているが、書き下ろし「『ローマ法案内』補遺」がありがたい。

池尾和人「現代の金融入門、新版」は28頁以下において、「経済的な取引の約束履行の実行確保をすべて司法や警察に求めるというのは決して効率的なことではない」とし、「代替的な仕組みとしてよく知られているものの一つに、評判(reputation)のメカニズムがある」と述べる。bona fidesの概念に接近した瞬間である。しかながら、続いて、「比較的に閉じた(クローズドな)集団の中で、繰り返し取引が行われるような状況において、有効に働く」とする部分が問題を示している。「閉じた」というタームが精度を欠くのである。bona fidesは確かにfamaに依存するシステムであり、infamiaという決定的なサンクションを有するが、にもかかわらず「閉じた」ということではない。一定の質の者に対してオープンなのである。つまりパーソナルな限定は存在しない。「日本経済は、かつては評判に基づく実行確保の仕組みに依拠するところが大きかった」という認識に混乱が端的に現れている。逆に却って一定の質の国際取引においてbona fidesは助長される。何が透明性を阻害するかということを考えれば容易に理解できる。人的な関係は癒着や裏取引や徒党でもある。透明性はこれが無いということである。「評判」の方もその質を吟味しなければ認識を誤る。(169頁、注6)