小野善康さんの経済学会シンポでの発言への、松尾匡さんのコメント

 被災は個人の責任ではないということを強調され、日本はどこでも大災害に見舞われるリスクがあるのだから、国の制度として、災害時には復興と生活再建を保障するシステムを作るべきだとおっしゃいます。そこに恒常的財源としての「復興税」を組み入れるべきだと。
 いやそこまではおっしゃるとおり。全面賛成です。
 で、今回の話。今回の復興も、やっぱり増税でやれと…。30〜40兆円の復興支出を想定されております。増税しても景気は悪くならない。おカネがあっても使いきらずにためてしまう被災地の外の人からおカネをとって、ためずに全部使われる被災地にまわしたら、差し引きで総需要は増える。しかもその支出は被災地の外に向かうので、結局被災地の外の人の所得として戻ってくるのだ。
 うーむ。わかりやすい。この理屈自体は反論の余地はありません。

 でももちろん、被災地の外の人が、みんながみんな増税分を取り戻すわけじゃありませんよね。とられっぱなしの人と、とられた以上に戻ってくる人が出てくる。前者がおカネ持ちで後者が貧しい人とかいうならまだしも、そうじゃないですよね。またぞろ、大手建設業者が一番もうかる図式になるのですけど…。もちろん、それ自体は今むしろ必要なことだと思うけど、被災地の外はまだ「流動性のわな」だとすると、その恩恵はあまり周りには波及しない。結局一部の復興関連業者が、被災地の外のそれ以外の人たちから所得を移転してもらったという結果になります。
 ということは、被災地の外の人々が身の回りで支出するものは需要は減ります。サービス、商業、医療、福祉、教育等々ですね。被災地に送られる物を作っているところの中には需要が増えるものもあるかもしれませんが、差し引き減ってしまうものもあるでしょう。これらへの労働の配分は減って失業者も出るでしょう。その一方で、建設等の復興関連への労働配分は増えます。
 ところが復興関連公共事業に労働が配分されることって、戦争になって兵員が膨らむのといっしょですよね。事態が解決したら「復員」の問題が出てきます。それなのに、被災地の外では、人々の生活で支えられる仕事は、そのかんに需要が低迷して設備投資もしなくなり、廃業も倒産も増えて、新規参入は起こらず、産業自体縮小していかねないわけです。そのときどうなりますか。
 まあたぶん、延々と公共事業を続けることで問題の表面化を回避するという解決になりそうな気もしますが。

 だからそれよりは、国債で復興支出をした方がいいにきまっているのです。小野先生も上に載せた小川さんとの研究でもおっしゃっているように、それで将来世代への負担になるわけではありません。民間人に国債買ってもらって資金にしても、人々からおカネを吸い上げるには違いないわけですから、それよりは、日銀引き受けでおカネを作って復興支出するべきです。そうすると、被災地の外でも、建設関係にかかわらずすべての部門で需要が増えて雇用が増えます。設備投資も新規参入も増えるでしょう。

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__110527.html