よくわかるフーコー権力論

 昔一度書いたけど再掲するよ。


デューン』でおなじみのフランク・ハーバートのシリーズに「ジャンプドア」という宇宙警察(?)ものがあるんですが、そこで主人公が所属する機関名が「サボタージュ局」なのです。

 ずっと昔、何世紀も昔に、《良い事をしたい》という強迫観念を抱いた知的生物集団が、政府を乗っ取った。その強迫観念の裏側にうごめく複雑さ、罪悪感、自己懲罰などに気づかぬままに、彼らは政府から事実上すべての遅延や、繁文縟礼〔レッド・テープ〕を除去してしまった。知的生物の生活を不器用に支配していた大きなマシンが、いつのまにかトップ・ギアに入って、ぐんぐんスピードを増していった。いろいろな法律が発案され、その時間内に通過した。特別会計支出予算案がまたたく間に現実のものとなり、二週間で消費された。そんな必要があるとも思えない目的のための新局が、つぎつぎに生み出され、まるで気違いきのこのように増殖していった。
 政府は調速機〔ガヴァナー〕のない巨大な破壊車輪になってしまい、気違いじみたスピードで転げ回り、それが触れるあらゆる場所に、混沌を広げた。
 絶望の中で、一握りの知的生物たちが、その車輪のスピードをゆるめるための、サボタージュ部隊というものを思いついた。流血や、その他いろいろな程度の暴力行為があったが、結局、車輪のスピードはゆるめられた。やがて、その部隊が局になった。そして、今日存在するものが、とにかくこの局なのである――それ自身のエントロピーの回廊の中に向かって進んで行く一つの組織、暴力よりも微妙な牽制を好むが……必要が起こればいつでも暴力を振るう用意のある知的生物のグループだ。


フランク・ハーバート『鞭打たれる星』21-22頁)
殊能将之先生の日記よりコピペさせていただきました。

鞭打たれる星 (創元SF文庫)

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ドサディ実験星 (創元SF文庫)

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 つまりそれ自体ポジティブな力としての権力とはどのようなもので、それに対する抵抗はなぜ起きてしまうのか、はこれを読めば大体わかる(嘘)。最後にこのサボタージュ部隊が結果的には最強の警察機構、すなわち最高の権力になってしまいました、とのオチを付け加えれば完璧。
 内田樹先生も「今日フーコー権力論それ自体が人文系院生を規律訓練する最強の権力装置になってしまっている(笑)」とおっしゃっているではないですか。

寝ながら学べる構造主義 ((文春新書))

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