シノドス田中・宇野対談感想

 内容的には面白いのだが、なんというか、お二人の被害者意識の強さには辟易する。
 田中さんはマンガ批評界に無視されているわけだが、別に彼らに他意や悪意があるのではなく、ただ単に不注意で不勉強なだけでしょう。
 宇野君は角川ニュータイプ上野俊哉を重用して東浩紀を無視したことにいたくご立腹のようだが、そもそもぼくの理解では上野さんはアカデミズムでもオタク界隈でも重視されたことは一度もない。ぼく個人は彼の最良の作品は中大の院生紀要に載ったルソー論だと思う。『紅のメタルスーツ』なんてお笑いのネタにさえならずに忘れられたじゃない。


 そんな小さなものなんぞ放っておけばよいのに。


 まあ昔はぼくも『ナウシカ解読』に対してマンガ批評界やSFプロパーから反応がなかったことに怒ったりしたものですが。


 ――ところで後半しか読んでないからあれなんですが、橋本努君はやたら大風呂敷広げて何が言いたいの? ――というか各論のレベルでも

いずれにせよ、インフレターゲット政策は、資産格差を生み出す、という点を指摘しなければならない。資産をもたない人々は、インフレーションによる資産価値の上昇効果を享受することができない。むしろ物価の上昇によって、ますます生活が苦しくなるばかりだろう。インフレーションによる資産価値の上昇は、資産をもつ人ともたない人の経済格差を広げることになる。これに対して適度のデフレーションは、資産をもたない人々にとって望ましい政策である。デフレーションは、資産格差を生み出さない。と同時に、人々は勤勉に働いて貯蓄をすれば、将来、比較的安く資産を購入することができる。そういう勤勉さの倫理を、デフレーションはもたらすであろう。

なんてご主張はぼくにはまったく理解できないんだけど。
 インフレ、デフレもどちらも、さしあたり短期的には、資産分配にかかわる効果においては中立的と考えた方がいいんじゃないの? インフレ・デフレを通じた再分配は、時間を通じて行われる。インフレの時は債権者から債務者へ、デフレの時はその逆に。もちろんそれが結果的には水平的な再分配に帰結することもあるだろうけど。
 デフレは資産を持たない人には通常は不利ですよ。そういう人は普通は債務者だからね。デフレで得するのは勤労者より金利生活者でしょう。

追記(12月27日)

 その後チェックしたが、宇野君の泉信行に対する難癖にはうなずけない。「泉は宇野を読まないで批判している」という印象操作をしていると言われても仕方がない。
 泉はただ単にブログ読者へのサービスとして「手っ取り早く内容を知りたい人はこっちを読めばよい」と言ってるにすぎない。ただ、本体を読む必要なし、との印象操作になっていないとも限らない。この辺は少しばかり微妙ではある。
 それに対して宇野君は、「泉は俺を読まずに批判している」とはっきり言ってはいない。しかし即断した田中氏が「宇野さんの本を読まないで批判するのは確かに悪質ですね。」としているのを訂正していない。しかし泉が『ゼロ年代』を『SFマガジン』連載時からチェックしていたことはブログから明らかである。
 少なくとも宇野君の印象操作は泉のそれと同程度には悪質です。わざとかどうかは知らないけどね。たぶん、どっちも不注意だというだけのことだと思うんだが……。