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どなたでも計量経済学の素養のある方、突っ込みをお願いします。
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カルロ・アルベルト大学、パレート講義
成長の政治経済学
ダロン・アセモグルー
マサチューセッツ工科大学経済学部
2007年6月
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世界経済の現状
・今日の各国間の豊かさにおける巨大な差異
―サハラ以南アフリカにおける一人当たり所得は平均して合衆国の20分の1
―マリ、コンゴ民主共和国(ザイール)、エチオピアは合衆国の35分の1
・何がこうした経済的帰結の相違を説明するか?
・我々は開発と低開発をどうい理解すべきか?
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講義計画
・この講義は2部からなる。
1.豊かさの源泉:制度は問題である
―制度 対 地理 対 文化
2.成長の政治経済学理論に向けて
―一般的洞察
―若干のディテール
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第1部 豊かさの源泉
・アウトライン
―成長Growth 対 発展Development
―豊かさの至近要因
―豊かさの根本要因:制度 対 文化 対 地理
―歴史の「天然の実験」
*ヨーロッパによる植民地化
*南北朝鮮
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なぜこれほどまでに大きな差異が?
・単純な回答:過去200年間にわたる成長率の差異。
・今日豊かな国々は、1840年から1900年までの、工業化にとっての決定的な時期において急速に成長していた国々である。
―そしておそらくはもう一つの決定的な時期が、1970年代半ば以降、新技術の世代いまひとつの世代が到来した時代である
―東アジアとラテンアメリカを比較せよ。
・そこでわれわれは、なぜいくつかの国々は、その後更なる成長機会を約束するものへと投資することに失敗し、隠して成長に失敗してしまうのか、を理解せねばならない。
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豊かさと経済成長の至近要因
・物的資本の差異;豊かさと成長は貯蓄と関係がある。
・人的資本の差異;教育と技能の重要性。
・「技術」の差異;研究開発への投資と技術選択、効率的な生産組織。
・市場;うまくはたらく市場の重要性。
疑問:なぜある国々は十分に貯蓄せず、十分に投資せず、技術を開発できず、使用できず、うまく働く市場を持たないのか?
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・制度;人間によって工夫された、インセンティヴを形成するルール。
⇒成長の政治経済学。
・地理;環境の外在的差異。
・文化;信念、態度、選好における差異。
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制度とは何か?
・Douglass North (1990, p.3):
「制度とは社会におけるゲームのルールである。よりフォーマルにいえば、人間的な相互作用をかたちづくる、人間によって工夫された誓約である。」
・経済的制度(例えば、財産権制度、参入障壁)
―経済的インセンティヴ、契約の可能性、分配を形作る
・政治的制度(例えば、政府の形態、政治家に対する制約)
―政治的インセンティヴと政治権力の分配を形作る。
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制度は問題となるか?
・国々の間での、政治的・経済的制度における大きな差異。
―財産権の執行Enforcement。
―法体系。
―腐敗。
―参入障壁。
―政治家と政治エリートに対する制約。
・しかしながら、これらは経済成長に対して因果的な効果を持つのか?
長期的な経済発展には?
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「天然の実験」としてのヨーロッパによる植民地化
・なぜ「天然の実験」が必要となるのか?
―因果性にかかわる疑問にこたえるため。
・なぜヨーロッパによる植民地化か?
―多くの国々で制度とその他運不運を変えた、歴史上の一大事件。
・地理、生態系、気候風土といった多くの要因が一定に保たれた一方で、ヨーロッパ人たちは地球上の異なった場所で異なった制度を作り上げた。
・歴史的なエピソードが示唆する潜在的な「操作変数instrument」
入植者たちの死亡率
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操作変数としての入植者死亡率:議論
・入植者settlerたちの死亡率は、植民事業主体(国家)colonizerたちの入植に関する意思決定に影響を及ぼす。
・高い入植者死亡率は、植民事業主体をして搾取的extractiveな制度を選択せしめるが、それらは長期的成長には悪影響をもたらす。
・低い入植者死亡率のもとでは、植民事業主体はより入植・定着に積極的になり、発展的developmentalな制度を選択しがちとなる。
・植民地時代の制度は存続する傾向を持つ。
・入植者の死亡率は現在のパフォーマンスには直接影響していない――ただ、制度の発展を通じてのありうべき効果を別にすれば。
―識別のための仮定:いくつかの影響経路をコントロールしてチェックし、反証を試みよ。
・メカニズム:(潜在的)入植者死亡率⇒入植⇒初期の制度⇒現在の制度⇒現在のパフォーマンス
スライド12
入植者死亡率と現在の制度
グラフ縦軸:強制収用リスクからの保護の平均
グラフ横軸:入植者死亡率(対数)
スライド13
第一段階
第一段階回帰:
従属変数は強制収用リスクからの保護
全旧植民地 全旧植民地 全旧植民地 新ヨーロッパ以外
入植者死亡率
緯度
大陸ダミー
(カッコ内p値)
R自乗
観察事例数
カッコ内標準誤差
サンプルは一人当たりGDPデータを持つ国に限定
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誘導型:入植者死亡率と今日の一人当たり所得
グラフ縦軸:1995年購買力平価による一人当たりGDP(対数)
グラフ横軸:入植者死亡率(対数)
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制度の因果的効果:基本的二段階最小自乗推定
第二段階回帰
従属変数は1995年の一人当たりGDP(対数)
全旧植民地 全旧植民地 全旧植民地 新ヨーロッパ以外
強制収用リスク
からの保護
1985-95
緯度
大陸ダミー
(p値)
観察事例数
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制度の因果的効果:頑健性
第二段階回帰:全旧植民地
従属変数は1995年の一人当たりGDP(対数)
操作変数は:
入植者死亡率 入植者死亡率 入植者死亡率 黄熱病
(対数) (対数) (対数)
強制収用リスク
からの保護
1985-1995
気温(p値)
湿度(p値)
平均余命
観察事例数
訳者による解説
スライド10-16で行われているのは、テクニカルタームを用いると「操作変数法をもちいた二段階最小自乗推定」ということになるだろう。
ここで何がしたいのか? 回帰分析はたとえば、
Y=α0+αX
というモデルを立てる。ここでは説明変数たるXが原因となり、従属変数たるYが結果となって、XがYに対して及ぼす因果的効果をα1に読み込みたいわけであるが、現実世界はもちろん、こんな風にきれいにおさまってはくれない。そこで実際に観察されたXとYの組(X1, Y1)..(Xi, Yi)..(Xn, Yn)から、
Yi = β0 + β1Xi + ui
という式を作り上げる。もちろんここですべてのi=1, 2, ..,nについてβ0、β1は等しい。ここで問題はもちろん、uiである。これは誤差項と呼ばれる。最小自乗推定という、回帰分析でもっとも初歩的かつ基準的な推定法では、この誤差項の自乗の和が最小になるようなβを算出し、αの推定値として用いる。
つまりここで何が行われているのか、といえば、理論モデル「Y=α0+αX」にぴったりと対応した現実が観察できないのは、現実世界に入り込んでくる様々なノイズのせいだ、と考え、しかしそうしたノイズは幸運にも一定の法則性――確率論的な規則性――に従っている、と想定するのである。このノイズを具体的に表しているとされるのが、誤差項である。つまりこれは「Xの値から推定されるYの理論値と実測値の誤差」を意味する。しかしこうした誤差はあくまでも「誤差」であり、一定の範囲に収まりかつ確率論的な法則にしたがっている、とあえて楽観的に想定して、そうした誤差を最小にするような近似式を作ろう、というのが回帰分析だ。最小自乗法とは、誤差の自乗の総和が最小になるようなβの値を計算し、それをもってαの推定値とするやり方だ。
こうした標準的な回帰分析(による因果推論)は多くの前提=仮定の上に立っている。ひとつのポイントは、結果=従属変数たるYは確率変数とされている(Xによって説明されない部分が誤差項u)――その観測値はノイズによって汚染されているのに対して、原因=説明変数の方はこうしたノイズを含まない、と想定されているところだ。これは更に言うと、説明変数と誤差項とは、統計学的いえば相関をもたない――両者の変動の間には関係がない(そりゃそうだ、uってのはXによって決定されるはずの理想のYと現実のYとのずれなんだから)、と仮定されていることを意味する。
しかしこれは言うまでもなく強い仮定であり、この仮定をそのまま押し通すには余りにも問題がある場合には、別の工夫がいる。
こういう問題がリアルになるのは、たとえば、常識的に考えてXとYの間に、厳密にいえば双方向の因果関係がありそうな場合だ。ここでアセモグルが問題にしているのは制度と経済パフォーマンスの関係であり、主として制度を原因、経済パフォーマンスを主として結果の側において考えたいのだが、常識的に考えれば双方向の因果関係があって当然なはずである。それを想定に入れずに馬鹿正直に回帰分析をやってしまうと、困ったことになる。だからアセモグルとしては、双方向の因果関係があることを承知のうえで、そのうち片方の関係だけを取り出して計測したい、というわけだ。ここで「操作変数」が持ち込まれる。操作変数とは、あらかじめ(それこそより強い意味で疑いようのない「常識」であるとか、あるいは理論的にそうであると考えざるを得ない、という風に)説明変数Xとは相関する(関係があり、連動して変化する)が、誤差項とは(そして従属変数Yとも)相関しないことが分かっている(と想定される)変数である。これを用いて、説明変数Xの変動から、誤差項分の変動を取り除き、こうして加工された新しい説明変数X’によって、Yを説明しよう、というものである。
操作変数Zとすると、
X=λ0+λ1Z
というモデルを作り、
Xi=π0+π1Zi+νi
として誤差項νの自乗和を最小化する通常の最小自乗法を行う。ここで得られたπがそのままλの推定値として用いられ、ノイズを除いた
X’=π0+π1Z
となるX’をXの代わりに用いてYとの回帰分析を行う、というわけである。
ここでの分析ではまず第一段階において、説明変数たる制度(強制収用リスクからの保護)の変動を、操作変数たる入植者死亡率で説明する。入植者死亡率は最終的な従属変数である現在の経済パフォーマンスとは無関係であり、制度とは関係がある、とされているので、説明変数からノイズを除く操作変数として用いられるのである。
そして第二段階で、制度と経済パフォーマンスとの間で回帰分析が行われている。
(くわしい評価は訳者にはうまくできない。標準誤差やp値はよい値を示しているように思えるんですが……。どなたか解説頼む。)
参考:別所俊一郎氏(一橋大学)による計量経済学講義ノートより
http://www.econ.hit-u.ac.jp/~bessho/lecture/06/econome/060616IV1.pdf