ポール・クルーグマン『格差はつくられた』(早川書房)

格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略

格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略

 かなり政治主義的解釈が前面に出ていて、「選挙キャンペーン本」と言ってしまえばそれまでだが、ロジックは明快で、裏付けももちろんそれなりにきちんとあるので、勉強になる――と思ったら参照文献のリストがありません。これはひどい。あと、抄訳だそうですね。それならそうときちんと断り書きを入れるべきだ。


 それにしてもここ1,2週間ちょっと調べただけでも相当数の「不平等と経済成長」に関するマクロ経済学的研究の蓄積があるのに、「格差」がこれほど議論になっており、経済学的な研究も結構あるはずの日本語圏にいたはずのおれの眼にほとんど目に入ってこなかったのはなぜか。単なる不勉強か。すみません。ともあれ、若手のスター学者アセモグルとかベナブーとかいった面々の活躍を見ると、

In other specializations, such as labor economics,development economics, and public finance, a similar split has failed to develop mainly because, in many American departments, the macroeconomic aspects of these fields have quietly been dropped from the curriculum as these specializations have come to be dominated by microeconomists.

との嘆きとともに締めくくられた99年のウッドフォードの講演から、時代は確実に変わってきている、ということのようです。