小林慶一郎「けいざいノート」『朝日新聞』6月16日付

 最近は経済学の勉強はまるでしていないのだが、一読してなんだか引っ掛かりを覚えまくったので、久しぶりに経済について考えてみる。

 デフレ脱却とは物価の上昇のことなのだから、デフレ脱却を目標に掲げながら、タクシー料金の値上げに反対するのは、なんだかちぐはぐな印象だ。

 責任不在の文章。「ちぐはぐな印象」は誰に帰属しているのか、がそもそも不分明。もしそれが書き手自身に属しているのであれば、物価と個別の価格の区別をつけられない自分の不勉強を恥じていただきたい。もしもそれが普通の庶民に帰せられているのであれば、筆者の使命はこの「ちぐはぐな印象」をきちんと解きほぐしてあげることのはずなのに、それがまったくなされていないのはどういうことか。しかしもちろん最悪なのは、いったいそのどちらなのか、自体が一読しただけでは判然としない、ということだ。

 普通は、デフレは不況の結果だが、数年前から、デフレが不況の原因だという説が多くの経済学者やエコノミストから提唱された。

 これは「リフレ派」のことですね? しかしこの記述、なんとか許容範囲内だが、あまり正確かつ親切な記述ではない。今回の長期不況の歴史的発生要因としては、かの総量規制以降の全般的引き締め政策と理解されているはず。その意味ではデフレはリフレ派の理解でも「不況の結果」でしょう。ただし不況の継続の中で、市場にデフレ期待が長期的に形成されてしまって、実質金利を高止まりさせ、それが不況を自己実現的に長引かせた、という意味では「デフレが不況の(継続の)原因」にはなってしまっているでしょうけれど。

 昨年末ごろからは需要と供給のギャップが逆転し、需要不足ではなく、供給超過になっていることも明らかになった。つまり不況は、ほぼ完全に終わっているのである。

 確かに内閣府はそう主張しているし、改善はしているでしょう。新卒の就職市場なんかかなり安心してみていられる。でも失業率自体はまだ高水準なのね。議論の余地あり。

 需要不足はすでに、ほぼ解消した。なのにデフレが続いているということは、需要と供給がバランスした状態(均衡状態)でデフレが続いているということだ。
 (中略)つまり、低金利が続くという期待が、デフレを再生産するわけである。(中略)
 経済が均衡状態になると、実質金利は資本の収益性によって決定されるから、プラスの値になる。一方で、日銀の政策によって、名目金利はゼロ近辺に抑えられている。名目金利から物価上昇率を差し引いたもの、というのが実質金利の定義である。すると、名目金利がゼロ近辺で、実質金利がプラスなら、物価上昇率はマイナスにならざるを得ない。つまりデフレは続く。

 なんだか怪しい、とは思うけどそういう理屈も成り立つとは思う。後は実証の問題でしょう。詳しい人お願い。
 

 ただその場合、経済は均衡していて不況ではないのだから、デフレを脱却する必要もない。

 ええそのとおりですね、もしお説のとおり現在が均衡下のデフレであるなら、おっしゃるとおりです。しかしそれじゃあなんで、その舌の根も乾かぬうちに

 この新しい発想に従えば、デフレ脱却のために必要な政策も、現在と正反対のものになる。現実感は乏しいが、「デフレを脱却するために金利を上げる」という政策を、ちょっとは考えてみるべきなのかもしれない。

とくるのはいったいどうしたわけですか? 
 もし仮に今が均衡状態なら、どうしてデフレを脱却する必要があるの? 
 名目金利を上げることによって、誰が得をして誰が損をするの? 
 いずれにせよ、他の条件が一定のもとで、名目金利だけを政策的に操作することは、経済を均衡から乖離させることではないの? 


 それとも、現在は不完全雇用均衡で、デフレを脱却して完全雇用均衡に移行しようって話? まさかね。