大瀧雅之『動学的一般均衡のマクロ経済学』(東京大学出版会)

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 著者からご恵投いただく。快癒されたとの情報はしばらく前に入っていたが、何よりである。
 さて、合理的期待形成を陽表的に取り込んだマクロ動学モデルで、ケインズ的不完全雇用均衡を説明しようという最新の試みである。要するにケインズ経済学のソリッドなミクロ的基礎付けをやろうというわけ。
 さて当方にとって困ったことに、本書は一般物価水準をミクロ的経済主体の期待形成から内生的に導き出しており、中央銀行による貨幣供給とは独立のものとして取り扱っている(貨幣数量説の否定)。いきおい、ケインズ的拡張的金融政策の効果に対しては前向きな評価がなされているが、しかしその効果はリフレ派のいうようなインフレ率の変化を通じてもたらされるものとはされていない。むしろリフレ政策は貨幣への信認を掘り崩して有害無益と断じられている。『教養』での無遠慮なラベリングを援用させていただければ「実物的ケインジアン」の最新バージョンというわけだ。
 さて、専門的研究書とはいえ、教育的配慮が行き渡ってリーダブルな良書であるようだから、きちんと読ませていただくが(しかし当方最近はむしろ法学の勉強にいそがしい)、本格的な検討は当然素人の手に余る。とはいえ「リフレ政策はむしろスタグフレーションに導く」(127頁あたり)とか、「労働生産性の総体的上昇のマクロ的効果は、一時的なデフレを経てインフレ・低失業に導く、というものである(そして日本の90年代もこういうものだったのかもしれない)」(125頁あたり)といった趣旨の発言は、理論的な可能性の指摘としてはともかく、近時の日本の経験に適用するにはかなり乱暴なような気が、直観的にはしてしまうのだ。 
 「貨幣愛」の設定が恣意的だと批判される小野モデルなどに比べて、かなり巧妙なモデルを作っているらしいだけに、ものすごく気になる。ぼくも読みますから、いろいろな立場の専門家のご意見を伺いたい。なにしろリフレ派の某O氏によれば「日本リフレ派の最大弱点は算数に弱いこと(計量的実証派や実務家が多く、本格的な数理モデルの使い手がいないこと)」だそうだし。ねえ飯田君。